誰もが気になる病気の1つである、認知症。
高齢者の約4人に1人が認知症とその予備軍になるとの予測が
立てられているそうです。まずは認知症を正しく理解し、
認知機能の低下を防ぐ方法を、朝田先生に教えてもらいましょう!
朝田 隆 (あさだたかし)
医療法人社団創知会 メモリークリニックお茶の水 院長
東京医科歯科大学特任教授 筑波大学名誉教授
日本における認知症の権威
わかりやすい語り口で、TVや雑誌などでよく解説をされています
パート①
認知症やその症状・診断方法・軽度認知障害などを解説していきます。
パート②
認知機能の低下を防ぐには?話題のシナプソロジーなど詳しく解説していきます。
脳の神経細胞が死んだり破壊されてしまうことで、正常に脳の機能が営めなくなること。
神経細胞を破壊するような病気であれば、みんな認知症の疾患といえ、
認知症を引き起こす病気は100以上あるといわれています。
※厚生労働省研究班の調査
(2009~2012年度)
国内の患者数は年々増加しており、2012年時点で認知症の人は65歳以上の高齢者の推計15%、
約462万人にのぼるという結果が出ました。その原因は超高齢化社会に伴うものであり、
平均寿命が伸びたことで認知症になる危険率も増加したからです。
日本の女性の平均寿命は87歳弱、男性は80歳。7年差があると、ここでの開きで認知症になる確率が上がります。
アルツハイマー病
認知症の中でも一番多く、6割以上を占める。
脳血管性認知症
脳梗塞や脳卒中によって生じるもので、約2割を占める。
レビー小体型認知症
最近多くなっており、幻視や寝ぼけ行動が特徴。
前頭側頭型認知症
記憶は比較的よいが、社会的規範に反するような行動をする。
認知症には根本から治療できるような特効薬はまだありません。
薬があるのはアルツハイマーだけであり、現状の知能を維持することを目的とした対症療法薬になります。
コリンエステーゼ阻害薬
●ドネペジル(アリセプト) ●ガランタミン(レミニール) ●リバスチグミン(イクセロン)
NMDA受容体拮抗薬
●メマンチン(メマリー)
非薬物療法としては、運動系のもの、知的刺激系のもの、感情に訴えるものなどがあります。
〈例〉
認知症になったらその症状は様々といいます。実際に認知症になった人は、どのような症状が出るのでしょう?また具体的にはどんなことが日常生活で起こるのでしょうか。
①認知機能障害記憶力や注意力、推理力といった知能に関する障害。
例)寸前に聞いたことや言ったこと、やったことを忘れてしまう。日付や時刻が分からなくなるなど。
②BPSD(周辺症状) 周囲にとって結果として迷惑になってしまう行動。
例)暴言、暴力、徘徊、不安やうつ、もの盗られ妄想、便こねなど。
③生活動作における症状それまで当たり前だった生活動作に支障がでる。
例)服の着方が分からない、お風呂の入り方が分からなくなるなど。
日常で誰もがよくあるのが、ど忘れ。一方、特にアルツハイマー病などでよく見られる記憶障害は、
1つのエピソードが抜けてしまうこと。
①ど忘れの例
「テレビで見たタレントさんの名前が出てこない」といったように、
半分分かっていること。
②記憶障害の例
「お昼にご飯を食べた」といったようなエピソードが、ごっそり抜けてしまうこと。
生活に支障をきたすような種類が、
認知症のもの忘れの特徴です。
ここでは、認知症かどうかを診断する方法を説明します。自分でできるものもありますが、診断は専門の医師が行います。
認知症かどうかを診るために、面接や神経心理テスト、画像診断等の検査で総合的に診断します。
例えば、私の場合、面接で「朝の連続テレビ小説が楽しめるか?」という質問をします。
連続ドラマは、昨日までのストーリーを覚えていないと楽しめないので、わからない場合は
「最近のものはつまらない」という答えになります。
神経心理テストでは、年齢や日時、今いる場所を聞いたり、100から7を順番に引いたりしていくという簡単な計算問題や、3桁・4桁の数字を逆から言う(134⇒431)といったことを行う“長谷川式簡易知能評価スケール”が有名です。
指を開いて、親指と小指だけをくっつけてチューリップのような形を作って見せ、
同じような動きをやってもらうと、アルツハイマー病の人はできなかったりします。
①まずは手の平を合わせます。
②チューリップを手で作ります。
③手を回転させ親指と小指を合わせます。
画像診断では、MRIやSPECT(スペクト)といったものがあります。
■MRI
脳の形を評価することで、脳の委縮や脳梗塞などがわかります。
■SPECT
脳の血液量を評価することで、脳の部分的な活動状況がわかります。
認知症が心配な場合、まずは病院の“ものわ
すれ外来”などを受診するようにしてください。
「これさえやれば、認知症にならない」という画期的な方法はありませんが、運動・食事・知的刺激は重要な三要素といわれています。社会との交流を行い、健康的な生活を心がけましょう。
①運動
ウォーキングやサイクリングなどの有酸素運動は、研究の結果で効果があるとされており、2日に1度は30分以上行うことが良いとされています。
【豆チシキ】
・知的活動と身体の動きを同時に行う「デュアルタスク」と呼ばれる運動も効果が期待されている。
・デュアルタスクの要素を入れたプログラムとしては、6時限目の「シナプソロジー」に注目。
②食事
肉や卵等の高タンパク質をとる洋食よりも、日本の伝統的な食事がおすすめです。ビタミンA・C・E(エース)が入っている緑黄色野菜やDHAを多く含む青魚(鮭・鯖など)を積極的に摂ると良いでしょう。
【豆チシキ】
・ビタミンB1やコリンなど、脳の働きに良い栄養素が豊富に含まれているナッツ類も良い。
・オリーブオイルを豊富に摂る地中海式ダイエットがアメリカでは注目されている。
③知的刺激
音楽をする、本を読む、料理をする、旅行をする、トランプ・パズル等のゲームを行う等の知的活動を行うほど、認知症の発症危険度が減少するとの研究があります。
【豆チシキ】
・知的活動や他の人との交流が、新たな刺激となり、脳の神経ネットワークが強化される。
・逆に、社会との交流が少なく、新しい刺激が少ない生活を送っている場合は危険が高まる。
次に説明する「シナプソロジー」は今注目しているもの
の一つです。運動と知的刺激の要素を含んでいます。
脳へ新しい刺激を与え、それに対応することで脳を活性化させるプログラム。
適度に脳を混乱させ、その状況に対応しようとすることが、
脳の神経ネットワークの発達を促すと考えられおり、
全国でスポーツクラブを展開する株式会社ルネサンスが開発して、
シナプソロジー研究所が広めています。
①笑顔で楽しみながらできるプログラムで、周りの人との
コミュニケーションで、社会交流を行うことができます。
②知的活動(思考・計算・記憶など)をしながら、身体を動かすといったデュアルタスクの要素が含まれているのも効果的です。
③「正しい」「正しくない」といった尺度ではなく、頭をフル活用することに着目しているのも注目すべき点です。
大阪の枚方市で実施された認知機能低下防止教室での検証結果。3ヶ月の継続的なシナプソロジーの実践により、 高齢者と中年者のどちらの年代に対しても、記憶機能、注意・実行機能、言語流暢性が向上する可能性が示された。 (データ分析:筑波大学体育系の田中喜代次教授が代表取締役を務める株式会社THFで実施)
軽度認知障害の方を対象にした効果検証や、
国のプロジェクトでの活用も計画されています。
今後ますます期待されていくでしょう。
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